2026.02.25
ブランディング効果の測定方法|KPI設定と「検討意向率」が重要な理由
生山 久展 株式会社TCD ブランディングオーソリティー

ブランディングKPIとは
ブランディングKPIとは、ブランド活動の成果を可視化するための指標です。TCDでは、ブランディングKPIを単なる認知率の測定ではなく、認知の量、理解の質、選ばれる可能性を段階的に把握するための評価指標として捉えています。
- 認知率:その企業・ブランドを「知っているか」を測る指標。広く知られることは出発点だが、知られているだけでは選ばれない。
- 内容認知率:何をしている会社か、どんな価値を持つかが「理解されているか」を測る指標。ブランドの文脈が伝わっているかを確認する。
- 検討意向率:実際に「選ぶ候補に入るか」を測る指標。ブランド活動が購買・発注・採用・投資などの行動につながっているかを確認する最重要指標。
ブランディングへの投資対効果を問われたとき、「認知が上がった」だけでは十分な説明になりません。ブランド価値を数値で追跡するには、認知の「量」ではなく「質」を測る指標設計が必要です。本記事では、内容認知率と検討意向率を軸に、企業ブランディングの効果測定とKPI設定の考え方を整理します。
目標を定めず、何となくブランディングを始めていないか
日本においてブランディングという概念が用いられるようになって20年が経ちました。ここにきて、ブランディングという言葉はビジネスシーンの中で当たり前に使われるようになり、市民権を得た感があります。
業界や企業の規模に関係なく、多くの企業がその重要性に気が付き、ブランディングに取り組むようになってきています。しかし、思うような「効果」を上げられていない企業も少なくありません。こうした企業の共通点として、明確な目標を定めずに、何となくブランディングを始めてしまっているということが挙げられます。
製品ブランディングの場合は、売上という明確な指標があるので、ブランディングの「効果」が数字で確認しやすくなります。一方、企業ブランディングの場合は、短期的な売上に直結しにくく、効果が見えにくいものです。ブランディングに取り組んだものの、目に見える変化が感じられず、投資効果を求める経営陣から説明を求められることも珍しくありません。
企業ブランディングの効果は、ジワジワ出てくるものです。だからこそ、成果が出始めている予兆を先行指標として捉え、効果を「見える化」していく必要があります。この先行指標がブランディングKPIです。KPIを戦略的に設定し、継続的に観測できるかどうかが、ブランディングの成否を分けるポイントになります。
戦略的KPI設定は、ブランド課題の特定から始まる
図1は、顧客のブランドへの認識・評価を類型化したものです。知名集合から処理集合、考慮集合、推奨集合へ進むほど、顧客の評価やロイヤリティは高くなっていきます。ブランディングの出発点は、まず自社の企業ブランドの現状を正しく把握することです。
自社ブランドの課題は、そもそもの認知の低さなのか、認知はあるけれど検討対象になれていないことなのか、検討対象には入っているが想起順位が低いことなのか、あるいは推奨してもらえるほどのロイヤリティが築けていないことなのか。どこに課題があるのかを見極める必要があります。
ブランド課題を特定せずにKPIを設定すると、施策と評価指標がズレます。認知不足のブランドに検討意向率だけを求めても、短期的な改善は見えにくくなります。逆に、認知は十分にあるのに内容認知や検討意向が低い場合、単純な露出量を増やしてもブランド課題は解決しません。
つまり、ブランディングKPIは一律に決めるものではありません。ブランドの現在地を把握し、どの段階を改善すべきかを明確にしたうえで設定するものです。

「単純認知率」ではなく「内容認知率」の向上を重視する
ここからは代表的な目標指標であるKPIを見ていきます。まずはブランド認知です。ブランドの「実体」は顧客の頭の中にあるものなので、顧客に知られていなければブランドは存在しないのと同じです。
しかし、企業の名前だけを知っているという「単純認知率」は、あまり大きな意味を持ちません。単純認知率だけを上げても、好き・嫌いの感情面や、利用・取引・投資・就職といった行動面にプラスの影響を及ぼすとは限らないからです。
重要なのは、その企業がどういう事業・製品・サービスを展開しているのかという「内容認知率」を高めることです。とりわけB2B企業の場合、企業名は知られていても「何をしている会社か」が理解されていないケースが少なくありません。この状態のままパーパス、ビジョン、提供価値などを訴求しても、企業価値は文脈として伝わりにくくなります。
内容認知率が低い状態では、ブランドメッセージは正しく受け取られません。まず何をしている会社なのかが理解され、そのうえで、どのような価値を提供しているのか、なぜ選ばれるべきなのかが伝わります。ブランドコミュニケーションでは、認知の量だけでなく、認知の質を高めることが重要です。
自社のビジネスを分かりやすく伝えるという点では、AGCの事例が参考になります。多くのビジネスパーソンにとってAGCは、かつては旭硝子、つまりガラスの会社として認知されていました。しかし現在では、ガラス以外にも半導体向け素材などの事業が成長しています。2021年からのCMでは、「AGCは素材の会社」というメッセージをシンプルに訴求し、現在は具体的な次世代素材を取り上げながら「素材でガンバルAGC」を伝えています。顧客の理解進度に合わせた戦略的なコミュニケーションだと思います。
参考サイト)
素材でがんばるAGC
最も重要な指標は「検討意向率」と「推奨意向率」
私たちTCDでは、企業ブランディングの目標は、多くのステークホルダーの「考慮集合」に入ることだと考えています。考慮集合とは、そのブランドを利用・取引・投資・就職などの場面で、検討対象の候補に入れている状態を指します。
インターネットの発展によって、欲しい情報はユーザーが能動的に手に入れる時代になりました。そのため、考慮集合に入っていないブランドは、顧客から検索されず、比較対象にも上がりにくくなります。これは競争上、大きなマイナスからのスタートになります。
さらに、考慮集合の中で想起される順位が早ければ早いほど、先にアクセスしてもらえる可能性が高まります。そのため、企業ブランディングのKPIとしては、「検討意向率」と「想起順位」の2つが重要になります。
近年は、「推奨集合」の重要性にも注目が集まっています。強い評価やロイヤリティが形成されると、人はそのブランドについて誰かに話したり、勧めたりします。SNSの時代では、第三者の推奨情報が自然に広がり、他者の認識にも影響を与えます。企業にとって望ましい情報が社会の中で還流している状態をつくるには、推奨集合にどれだけ入れているかが問われます。
推奨意向を測る代表的な指標が、NPS=ネット・プロモーター・スコアです。10段階で推奨意向を聞き、9、10という強い推奨意向を示した人を「推奨者」とし、0〜6の「批判者」の割合を差し引いて算出します。シビアな指標である分、ロイヤリティを測るうえで有効な場合があります。

ブランディングKPIは外部評価と内部評価の両方で設計する
今回は、主に対外的なブランディングの目標指標について整理しました。しかし、企業ブランディングでは従業員向けの目標指標も重要です。
若年層を中心に働く価値観が多様化しており、自社へのロイヤリティをいかに高めるかは、企業ブランディングの重要テーマの一つになっています。若年世代ほど企業理念や社会的意義を重視する傾向があり、魅力的なミッションやビジョンを示せない企業は、採用や定着の面でも選ばれにくくなります。
そのため、企業ブランディングのKPIは、外部の認知・理解・検討意向だけでなく、インナーブランディングを通して内部の理念理解、共感度、行動浸透度を促進する必要があります。ブランドは社会に発信するメッセージだけでなく、社員の判断や行動を通じても形成されるからです。
TCDでは、ブランディングKPIを「ブランドがどれだけ知られたか」だけでなく、「どれだけ理解され、選ばれ、推奨され、組織内で体現されているか」を確認するための指標として捉えています。
Update:2026.02 情報追加